血管内診療科

脳外科医であっても、開頭手術と脳血管内治療の両方が選べるとしたら、 ほとんどの医者は脳血管内治療を受けるでしょう。

血管内診療科: 内藤 雄一郎

脳血管内治療

当院では脳血管内治療(カテーテル手術)を積極的に行っています。

カテーテル(ストローのようなチューブ状の医療器具)を血管に挿入して、脳の病気を治します。
開頭手術のように頭を切開して脳を露出することがないので、体への影響は最小限に抑えられます。 多くの場合は皮膚の局所麻酔だけで治療できるため、手や足に針穴ほどの傷で済み、傷の痛みや感染などもほとんどありません。 3泊4日程度で職場復帰可能ですから、有給休暇の範囲内で治療できます。 たとえ脳外科医であっても、開頭手術と脳血管内治療の両方が選べるとしたら、ほとんどの医者は脳血管内治療を受けるでしょう。

脳はとても脆弱かつ繊細な組織です。母親の胎内にいた頃から現在まで空気に触れたことはなく、引っ張ったり圧迫されることなどは正に想定外です。
他に手段がない場合は止むを得ませんが、脳血管内治療には、脳の生理的安定を維持しながら脳を空気に晒すことなく病気を治療できるという、非常に大きなメリットがあります。

対象疾患Target Disease

破裂脳動脈瘤(くも膜下出血)

元からあった脳動脈瘤が破裂すると、くも膜下出血になります。

くも膜下出血から元気に生還するためには、再出血や脳血管攣縮、水頭症などの多くの課題を乗り切らねばなりません。
脳血管内治療(脳動脈瘤コイル塞栓術)は開頭手術(クリッピング手術)に比べて脳血管攣縮や水頭症の発症が少なく、総合的な治療結果が優れていることは15年前から世界の常識となっています。

破裂脳底動脈瘤
コイル塞栓術中
手術終了時

未破裂脳動脈瘤

脳ドックや外来検査で未破裂脳動脈瘤がみつかることがあります。 脳動脈瘤は40歳以上で5%(20人に1人)、70歳以上では10%(10人に1人)の高頻度で見つかるとされています。 人口20万人の都市では1万人以上が脳動脈瘤を有していることになりますが、実際にくも膜下出血になる人は年間30人程度で、ほとんどの方は破裂しません。 日本人の未破裂脳動脈瘤の破裂率は以下のようになっています。

例えば4mmの中大脳動脈瘤の年間破裂率は0.23%です。 これは同じ病気の患者約400人に予防手術をしても、恩恵があるのはそのうち1人だけであり、他の399人にとっては無駄な手術であるということです。 脳動脈瘤がみつかってもいたずらに恐れる必要はないのですが、問題なのは「誰が?、いつ?、破裂するのか全く予測できない」ということです。 脳血管内治療部では未破裂脳動脈瘤がみつかった方に、上記の内容を個別に検討して十分に説明し、「未破裂脳動脈瘤のことが気になって、人生を楽しく過ごすことができない人」に手術を勧めています。

意を決して受ける予防手術が体への負担が大きいものであったり、合併症リスクが破裂率を上回るようでは受ける意味がありません。 また病気が治っても職場への復帰が遅れれば、実質的に仕事を失うこともあります。 入院期間が短くて仕事への影響も最小限で済み、体への負担も少ないカテーテル手術は、未破裂脳動脈瘤の治療として有力な手段であることは間違いありません。

未破裂内頚動脈瘤
コイル塞栓術後
未破裂内頚動脈瘤
コイル塞栓術後
(ステント併用)

頚部内頚動脈狭窄症

頚部内頚動脈狭窄症は、脳梗塞の原因として非常に重要なものです。 脳梗塞に関連している場合には50%以上、人間ドックなどで偶然に発見された場合には60%以上の狭窄であれば、血管治療を検討します。 血管を切開する血栓内膜剥離術(外科手術)と、カテーテルで血管を広げる頚動脈ステント留置術(カテーテル手術)の2つの治療法がありますが、 脳血管内治療部では体への負担、合併症リスク、治療の安定性、再発率の低さ、等の多くの面で優れている頚動脈ステント留置術を積極的に行っています。

頚部内頚動脈狭窄症
ステント留置術後

頭蓋内動脈狭窄症

脳内の血管が動脈硬化で細くなってしまいます。 日本を含むアジア人に多く、脳梗塞の原因として非常に重要です。 カテーテルで血管を広げる血管形成術以外には有効な治療法がありませんが、高い治療技術が必要で合併症リスクも懸念されることから、薬物治療のみで経過をみられている場合がほとんどです。 脳血管内治療部ではこれまで数多くの治療経験があり、時には最新型の頭蓋内血管専用ステントを用いて積極的に治療を行っています。

頭蓋内椎骨動脈狭窄症
血管形成術後
(ステント併用)

脳動静脈奇形

先天的に脳内に脆弱な血管の塊があり、脳出血やてんかん発作の原因となります。 病状は多彩かつ複雑であり、治療については個別に詳細な検討が必要です。 外科手術で全摘出することが望ましいとされていますが、大きな病変の外科手術では大量出血や脳損傷がひどく正に命懸けの手術になり、後遺障害のために元の生活に戻れなくなることも稀ではありません。 集中放射線治療(ガンマナイフなど)は有力な治療手段であり、当院の関連病院である野猿峠脳神経外科病院(八王子市)と密に連携して治療を行っています。 脳血管内治療部では、事前にカテーテル手術で病変の血管を閉塞させ、外科手術での出血を軽減させて安全性を高めたり、ガンマナイフの治療効果を高めています。

脳動静脈奇形
塞栓術
(液体塞栓物質)
塞栓術後
(大半が消失)

硬膜動静脈瘻

正常の血液循環は、心臓→動脈→毛細血管→脳組織→静脈→心臓、なのですが、様々な原因で動脈と静脈が部分的に直結する病気です。 静脈内に動脈血が流れ込むため静脈圧が上昇し、脳出血やてんかん発作、認知障害、眼球突出・充血などを引き起こします。 また拍動性耳鳴(脈拍と同期した耳鳴)はこの病気の特徴的症状です。カテーテル手術が治療の第一選択になります。

硬膜動静脈瘻
(動脈と静脈が同時に描出されている)
動脈:赤矢印、静脈:紫矢印
塞栓術後
(動脈のみ描出されるようになった)

脳腫瘍栄養血管塞栓術

脳腫瘍手術中の出血は安全な摘出の妨げとなり、良い結果につながりません。 脳血管内治療部では、血流豊富で出血しやすい脳腫瘍の手術に先立ってカテーテル手術を行い、腫瘍血管を閉塞させて血流を断つことで摘出手術を容易にしています。

血流豊富な脳腫瘍
血管塞栓術
塞栓術後
脳腫瘍(髄膜腫)
安全に全摘出

脳梗塞(超急性期再開通療法)

主要な脳血管が血栓などで閉塞すると脳梗塞になり、大きな後遺障害を残したり生命に危険が及ぶことがあります。 脳梗塞治療は時間との闘いです。 発症から4.5時間以内であれば血栓溶解剤(t-PA)を投与します。 それでも効果がない場合や発症から4.5時間以上経過している場合には、カテーテル手術で血栓を除去することで脳血流を回復させ、脳梗塞の重症化を防ぎます。

左中大脳動脈閉塞
(右半身麻痺、全失語)
血栓回収術後
(完全再開通)
後遺症なく退院