Chapter 4

脳動静脈奇形Arterio-Venous Malformation: AVM

病態

一般に脳に限らずあらゆる臓器は心臓からの動脈血が毛細血管を介して栄養され静脈を経て心臓に還流されています。

図は正常な脳血管に対する脳血管撮影です。

説明のため、一定のフレームレートで撮像した後に、開始から24フレーム、以後12フレーム毎に色相を調節しています。24フレームにて色相環で-30度、以後12フレーム毎に-30度ずつ加算しています。

動脈:赤
毛細血管:赤紫→青紫
静脈:青の具合に、酸素化された動脈血が組織に酸素を供給して、酸素化された割合の少ない静脈血になる様子を再現しています。

動静脈奇形(Arterio-Venous Malformation: AVM(以下略))とは動脈と静脈の間に毛細血管が介在せずナイダス(nidus)と呼ばれる病的な血管を介して直接結合した状態です。

図は左側頭葉に首座を持つ脳動脈奇形の症例の脳血管撮影です。

画像処理や色相の調節のタイミングは上記正常例と同様です。

正常例と比較すると、開始から24フレーム目あたりの、正常例では毛細血管が写り始める(色が赤から赤紫に変わり始めるあたり)タイミングの前後で、大きなナイダスとナイダス直後の拡張した静脈が写っています。
その後、正常例では紫色の毛細血管が写るタイミングでは、既に静脈が描出されており、静脈が写らなくなるタイミングも正常例よりも早いです。

高い圧力と速い流速を持った動脈血が壁の薄いナイダスや静脈を直接還流することになりますので、破裂して出血を来すことがあります。

また、酸素・栄養を持った動脈血が組織を潅流することなく静脈に短絡している状態ですので、AVM周囲の脳組織は多くの場合変性脱落しておりけいれん発作を発症することもあります。

自然歴

脳動静脈奇形は比較的稀な疾患で、発見率は約1/1000と言われています。

一般的に年間出血率は2~3%といわれています。ひとたび出血が起こると周囲の脳組織を破壊します。出血の程度や出血した脳の部位に応じて様々な程度の障害をきたし後遺症が残ります。

また、出血を起こした年の年間出血率は6〜7%に増加し、翌年以降は再び自然歴(2-3%)に戻ります。

出血を来した場合30%ほどの割合の方に重篤な後遺症(片麻痺・失語症・高次脳機能障害・意識障害など)が残ります。

診断の重要性

脳動静脈奇形に対しては治療以上にしっかりとした診断が重要です。上述のごとく脳動静脈奇形を構成する動脈・静脈の流入・流出パターンをカテーテル検査ではっきりさせます。

ナイダスの存在部位をMRIではっきりさせるとともに、fMRI、トラクトグラフィーなどで、ナイダスの存在部位が脳機能的に重要な部位か否かを判定します。

検査所見をもとに、安全確実な手術が可能か否かの観点から1~5のスコアをつけます。(Spetzler-Martin Gradeといいます)

スコアリングの方法はAVMの大きさ(S:1~3)・場所(E:0 or 1)・静脈還流の方向(V:0 or 1)を元に決めます。

Spetzler-Martin Grade

はじめに、AVMに対しては治療する以前に「治療するべきか経過観察すべきか」を判断することが重要です。
もちろん開頭術によってAVMが全摘されれば術直後から出血のリスクはゼロにすることができますから、合併症・後遺症のない全摘出が理想ではあります。

強調したいのは患者様に「開頭AVM摘出術」の内容を漠然とではなく、どういった操作手順・操作なのかをリアルに理解して頂きたいということです。
一見まわりくどいのですが、きちんと理解して頂ければ、殊AVMに対しては「無治療経過観察」が症例によっては「治療」に勝る選択肢であることが理解できると思います。

話は逸れますが世の中には、AVM摘出術は特別難しいと言い、技術的側面を誇張する説明や(私は何例やってますとか。。。そういった説明は本当に嫌いです)、具体的に何が難しいのかを説明せずに、殊更患者様の不安を煽る内容が多いのには辟易しています。
(こういった心ない説明が患者様の透明な理解を妨げるとともに、つまらぬ自己満足の発露にすぎないことを付記します。)

AVMの手術に際しては、血管の処理の順序に関する術前の計画が最も重要であり、あらゆる側面から病変を構成する情報を取得して分析します。
手術に先だってAVMを構成する流入動脈と流出静脈は完璧にイメージして、どの順番でどの血管が出てくるか、どの順番でどの血管を凝固切断するかを決めておきます。
実際の手術では計画どおりに流入血管を順番に遮断・凝固切断を繰り返しながら、AVMの本体(ナイダス)を露出してゆきます。
一つ下のセクションの画像所見から分かると思いますが、ナイダスは脳組織の中に埋まっているため、ナイダス周囲の境界部を構成する脳組織を少量ですが吸引除去しないと露出できません。

当然ですが、ナイダスを露出するために吸引除去する脳組織が機能的に重要な部位の場合は、こういった操作が成立しません(「難しい」とか「危険」なのではなく「無理・不可能」なのです)。
こういった操作が成立する部位においては、引き続き同様の操作をすすめ流入する血管を全て凝固切断し、nidusを最終的に流出する静脈(drainerといいます)のみの状態にして摘出します。
流入血管は症例によっては1000本以上(冗談ではなく!)あり、1本1本凝固切断したり、丹念な剥離・露出操作が必要ですので一般的に手術は長時間に及び、根気のいる作業ですが難しくはありません。
予定どおり淡々と上述の操作を繰り返すだけです。

以上、AVMにおいては「治療しない方が良い」ケースがあること、Spetzler-Martin Gradeとは「治療すべきか経過観察すべきか」を見極めるスコアリングであることが理解いただけたと思います。

Spetzler-Martin Gradeのスコアリングと経過観察・治療の選択

・ナイダスの大きさ(S要素):0-3cm->1点, 3-6cm ->2点, 6cm超->3点
・機能的重要性(E要素):運動野・言語野といった身体機能に直結する領域や、fMRI, トラクトグラフィーなどの所見から、重要な神経線維や機能部位に露出操作が及ぶ場合->1点
・ 深部静脈還流(V要素):流出する静脈が脳深部に向かう場合->1点 の5点満点でスコアをつけます。

スコアが1点、2点の場合は安全な摘出が可能です。
3点の場合はS3E0V0やS2E0V1の場合は比較的安全に摘出ができますが、S2E1V0やS1E1V1のようにE要素のために3点になっているものは上述のとおり手術は避けた方が賢明です。
4点,5点の場合は当然E要素が1点であることが多く(S3E0V1というのはあまりないのです ->AVMが6cmより大きければ、大きいゆえに機能的重要部位に隣接してしまう)、無治療経過観察や補助治療(ガンマナイフ治療(以下記載)・血管内治療(別ページ記載))を併用した段階的治療を選択するケースが多いです。

Spetzler-Martin Grade以外に「びまん性(一塊になっていない)ナイダス」「流入血管が重要部位の穿通枝」の症例は個人的意見として、機能障害のリスクが高く手術は避けるべきでしょう。

画像診断の一例

上記脳血管撮影を行った同一AVM症例の造影MRI画像です。
volume renderingを行って3次元画像としたのちに、セグメンテーションを行っています。
ナイダスと流出静脈は赤、流出に関与していない表在性静脈は青く表示されます。
脳血管撮影の所見からは拡張した表在性静脈がAVMのコンポーネントであるか否かがわかりにくいのですが、このようにセグメンテーションを行うことではっきりします。
AVMからの流出は画面上ナイダスの左隣に赤く写っている深在性Sylvius静脈であり、表在性sylvius静脈はAVMからの短絡で増加した血流の影響で拡張していますが、AVMのコンポーネントにはなっていません。
拡張した静脈のためナイダスの大きさを過大評価しやすいのですが、長軸方向に約3.5cm程度です。ナイダス自体は中側頭回に首座を有し、中大脳動脈皮質枝からの血流を受け、先ほどの深在性sylvius静脈に接するように深部に向かっています。
最深部は海馬などの内側構造物には及んでいません。

上記同一AVM症例の拡散テンソルから得られたトラクトグラフィーです。
脳内において拡散テンソルは、直交3成分を固有ベクトルとして対角化されます。
擬似的に神経線維の方向を固有値(の絶対値)が最大となる方向(第1主成分)とします。
同時に撮像したリファレンスのMRI画像と重畳させ、リファレンス画像上の神経線維が通過する部位を指定します。(シードポイントといいます)
図の青い繊維は錐体路と呼ばれる運動線維です。内包後脚をシードポイントとして描画しました。
図のオレンジ色の繊維は視放線と呼ばれる、右半分の視覚情報を左後頭葉に伝える感覚繊維です。左外側膝状体直後の視放線をシードポイントとしています。
本症例では、ナイダス底面において視放線の一部が近接して走行しており(Mayer's loop)摘出に際して問題となります。

上記症例のスコアリングとその後

・ナイダスの大きさ(S要素):3.5cm->2点
・機能的重要性(E要素):感覚性言語野、視放線の近接所見->1点
・ 深部静脈還流(V要素):深在性sylvius静脈への還流->1点
・Spetzler Martin Grade = S2E1V1 =4点 です。

以上の所見を患者様にご説明して、摘出術は賢明な選択肢ではないこと、「無治療経過観察」あるいは、1回の照射で完全消失を得るには若干大きい(一般的に3cm以下で完全消失率高)ものの、「ガンマナイフによる段階的治療」をおすすめしました。
患者様は「無治療経過観察」による出血のリスクを抱えたままの状態よりも、大きさゆえに完全消失率は低くなるが積極的な治療を希望されたため「段階的治療」になり得ることを前提に「ガンマナイフ治療」を行いました。

ガンマナイフ治療Gamma Knife Therapy

原理

ガンマナイフ治療は放射線治療の一種で、小線量のガンマ線を虫眼鏡の要領で病変部に集中させて病変を破壊する治療です。
一般的に放射線治療は腫瘍性病変に対する治療ですが、治療効果が得られる原理というのは、正常脳組織よりも腫瘍組織の方が放射線感受性が高いことを利用した殺腫瘍効果にあります。

放射線感受性が高い腫瘍は血管新生を伴っているものが多く、殺腫瘍効果の一つの理由として、新生血管が放射線により障害されるからだと言われています。
恐らくは同じ理由で、AVMにガンマナイフ治療を行うとナイダスを構成する血管様の組織が放射線により障害され、治療効果が得られます。

効果ならびに治癒率

病変(ナイダス)の大きさが3cm以下のAVMにガンマナイフ治療を行った場合、照射後2~3年で約80~90%の確率で完全閉塞が得られます。
ただし、完全閉塞が得られるまでの期間は自然歴と同じ年間2~3%の出血のリスクがあります。

また、病変(ナイダス)の大きさが3cmを超えてくると1回の照射での完全閉塞率は低くなり、3年以上の経過観察でナイダスの消失が得られないことがあります。
かかる場合は、病変が部分的に縮退する結果、AVMのコンポーネント(流入・流出血管)の変化がおき、血流動態が変化するため予期せぬ出血を招くことがあります。
照射を繰り返した場合は、照射線量の増加に伴う周辺脳組織の壊死や、照射部位に放射線誘発腫瘍の発生リスクが上がるなど晩期合併症が問題となります。

晩期合併症

低容量といえども放射線照射にともなう放射線誘発腫瘍の合併例はあります。長期経過観察後(10年から20年後)に病変部に遅発性脳内血腫を形成し手術が必要になる可能性があります。

適応

AVMが機能的に重要な部位に存在し、摘出術は避けることが望ましい症例、具体的にはSpetzler Martin GradeでS1E1V1の症例が良い適応です。
病変(ナイダス)の大きさが3cmを超えてくると上述のごとく治癒率が低くなりますが、再度のガンマナイフ治療を行ったり、縮小して摘出術が可能な状態に変化したことにより摘出術を行うといった「段階的治療」が行われ良好な治療成績が得られています。

AVM摘出術Surgical AVM resection

適応と症例

手術によりAVMが全摘出されれば、術直後から出血のリスクをゼロにすることができます。ある意味中途半端なガンマナイフ治療と違った根治性こそが外科手術の最大の利点です。

上述のごとくAVMの本体は脳組織の中に埋まっているため、境界部分の脳組織は最低限ですが吸引除去しながら、ナイダスを露出し、流入・出血管を処理しつつ摘出することになります。
露出するために吸引すべき周囲脳組織が機能的に重要な部位の場合は、かかる手術操作は「不可能」であり成立しません。
基本的にはSpetzler Martin Gradeが1または2点のものが良い適応です。

画像と手術

脳血管撮影

色相の調節のタイミングは上のセクションと同様
後大脳動脈皮質枝が側頭-後頭葉境界部の底面を通過し外側面に出てくる部位に動静脈短絡を有し、側頭葉後半部の表面を斜走する静脈に流出している

造影MRI画像

volume renderingを行って3次元画像としたのちに、セグメンテーションを行っています。
ナイダスと流入動脈は赤、流出静脈は青く表示
脳血管撮影の所見からは立体的な把握がしづらいのですが。ナイダス自体は下側頭回の後半部に存在し、後大脳動脈皮質枝からの血流を受け、中央部を斜走する表在性静脈に流出します。

同一AVM症例の拡散テンソルから得られたトラクトグラフィー

図の青い繊維は右内包後脚をシードポイントとした錐体路。
図のオレンジ色の繊維は右外側膝状体直後の視放線をシードポイントとした視放線
本症例では、視放線とは十分な距離があります。
Spetzler-Martin Grade= S1E0V0 =1 となります。

同一AVM症例の手術

右耳介上方にAVMとコンポーネントとなる血管の観察が可能な範囲の開頭を行い、脳表を露出します。
側頭葉底面を外側に向かって走行してきた、流入血管である後大脳動脈の皮質枝が、ナイダスを経て術野中央を斜走する流出静脈に注いでいます。
流出静脈は動脈血を受けているため通常ですと青紫色をしていますが、赤くなっています(Red Veinといいます)。
ナイダスに流入する後大脳動脈の皮質枝を1本ずつ遮断・凝固・切断を繰り返して、ナイダスへの血流を絶ってゆきます。
ナイダスの境界部の脳組織を吸引除去しながら、ナイダスを露出してゆきます。
最終的にナイダスが流出静脈1本のみに繋がっている状態として、流出静脈を遮断・切断して全摘出します。

著者紹介

坂本 真幸
院長:坂本 真幸
資格
脳神経外科学会専門医
脳卒中学会専門医
脳卒中の外科学会技術指導医
専門
脳血管障害(脳動脈瘤・脳動静脈奇形etc)
良性脳腫瘍,頭蓋底・脳深部腫瘍,下垂体・傍鞍部腫瘍
Janetta手術(三叉神経痛・顔面けいれん)
略歴
群馬県出身
2000年 東京大学医学部卒業、同大学脳神経外科医局 入局
2009年 医療法人社団新和会 西島病院 医長
2013年 同 院長