Chapter 5

閉塞性脳血管障害Occlusive Cerebrovascular Disorder

脳主幹動脈に関する予備知識

脳は左右の内頚動脈と椎骨動脈の4本の太い血管で栄養されています。内頚動脈はさらに中大脳動脈・前大脳動脈と分岐します。中大脳動脈は大脳の前外側2/3を栄養し前大脳動脈は大脳の前内側面を栄養し左右を結ぶ前交通動脈で互いに結合しています。これらの血管を前方循環と呼びます。

椎骨動脈は脳幹の前面で左右が合流し脳底動脈となり脳底部で左右の後大脳動脈となり脳幹の上部と大脳の後内側を栄養します。これらの血管を後方循環と呼びます。

また、左右の後大脳動脈と内頚動脈は脳底部で後交通動脈により互いに交通があります。したがってこれら4本の脳血管からの血流は脳底部でループを形成し(Willis動脈輪と呼びます)血流がプールされる仕組みになっています。この仕組みは仮にこれら4本の血管のうちの1本が閉塞しても他の血管からの血流が閉塞した血管が本来栄養する脳の領域に血流を確保するための生体の防御機構といえます。

閉塞性脳血管障害の病態

上述のごとく心臓から脳に至るいずれかの血管に閉塞性病変が存在する場合、閉塞や血流低下にともなう脳血流障害により脳組織が死滅する(脳梗塞)リスクがあります。

内頚動脈閉塞症Occlusion of Internal Carotid Artery

内頚動脈閉塞症

脳神経外科で手術を検討するのは(急性閉塞ではない)内頚動脈閉塞です。

病態

全くの無症候だったり、軽度の脳梗塞(分水嶺梗塞のパターン)で発症することが多いです。
閉塞した内頚動脈の支配領域は対側ならびに後大脳動脈からの血流によって部分的に補われています。(側副血行路と呼びます。)

脳血流検査の検査では閉塞した内頚動脈の支配領域に一致して脳血流(CBF)の低下をみとめ、脳血液量(CBV)の増加ならびに造影剤到達時間(TTP)延長の度合が対側と比較して顕著であります。

CBF
CBF
CBV
CBV
TTP
TTP

閉塞した側の脳血管は脳血流が不足している状態(CBFの低下)なので、血管が拡張することで血液をプールさせ(CBVの増加)、不足している脳の血流をかろうじて維持している状態です。

血圧が下がったり脱水になって脳の血流がさらに必要なときに血管が拡張するためのゆとりがなく、脳梗塞をきたしやすい状態といえます(血管予備能(vascular reserve)の低下といいます)。

バイパス手術:浅側頭-中大脳動脈(STA-MCA)吻合術STA-MCA Anastomosis

完全に閉塞してしまった内頚動脈を元通りにすることはできません。
内頚動脈の支配する末梢に相当する中大脳動脈(Middle Cerebral Artery: MCA)の分枝に、頭皮を栄養する浅側頭動脈(Superficial Temporal Artery: STA)を吻合するバイパス手術(STA-MCA吻合術)を行います。
浅側頭動脈が脳動脈の代わりとなり、脳に豊富な血液を供給します。これにより、将来の脳梗塞を防ぐことになります。

手術前と手術後

右脳動脈閉塞症の患者様。手術前の検査(上2枚)では右脳の血流が乏しいが、バイパス後(下2枚)は非常に血流が増えている。

方法

脳神経外科における基礎的な手術です。

耳介前方からこめかみにかけて7cmほどの小切開をおいて直下の浅側頭動脈(STA)を剥離・露出します。さらに直下に500円玉を2枚並べた程度の小開頭をおきます。

脳表を観察して吻合に適切な径を有する中大脳動脈(MCA)の分枝を見つけます。
吻合の準備を行い、STAの断端とMCAの側面を10-0ナイロン糸(毛髪の太さくらいの細い糸)で縫合します。
血管の径にもよりますが、0.04−0.1mm間隔で片面5針ずつくらいが標準的です。
縫合が終わったら、MCA -> STAの順に遮断を解除して、吻合面からの出血がないことを確認します。
血流計や蛍光色素などで良好なバイパス血流を確認して手術を終了します。

著者紹介

坂本 真幸
院長:坂本 真幸
資格
脳神経外科学会専門医
脳卒中学会専門医
脳卒中の外科学会技術指導医
専門
脳血管障害(脳動脈瘤・脳動静脈奇形etc)
良性脳腫瘍,頭蓋底・脳深部腫瘍,下垂体・傍鞍部腫瘍
Janetta手術(三叉神経痛・顔面けいれん)
略歴
群馬県出身
2000年 東京大学医学部卒業、同大学脳神経外科医局 入局
2009年 医療法人社団新和会 西島病院 医長
2013年 同 院長